凶暴な音塊とともに放たれる、憤怒と悲哀。
Cyclamenの全貌と新作『ASHURA』に迫る

変則的な活動方針ながら、日本のバンドとして世界各地のアンダー
グラウンド・シーンに熱狂的な支持層を持つCyclamen(シクラメン)。
およそ3年ぶりのアルバム『ASHURA』が、まさにリリース間近だ。
今作は圧巻のプレイアビリティを最大限に駆使しつつ、制御不能
の激情を暴発させた、濃密なテクニカル・メタル/ハードコア作。
DIYな活動を貫いているため、「どんなバンドなのか」がなかなか
見えなかったが、創設者であり、司令塔である今西勇人(vo)に、
じっくり話しを聞くことができた。Cyclamenのこれまでとこれから
に触れつつ、ぜひ『ASHURA』にも向き合ってほしい。

――Cyclamenはもともと、2008年にソロプロジェクトとしてイギリスを拠点に
スタートしたんですよね? その経緯を教えてください。
「日本で地元の中学校に1年だけ通って、その後イギリスに13歳のときに渡っ
たんです。ギターを弾いて、音楽をやり始めたのは15歳のときですね。その後
RAGE AGAINST THE MACHINEやTHE OFFSPRINGなどを入り口に、深く
ロックに入っていきました。2008年にCyclamenをスタートさせたときは、まだ
PINK WIDOWというバンドでギターを弾いていたんですけど、音楽的な方向性
で意見が分かれていたんです。僕が曲を書いても、なかなかバンドで採用さ
れなくなってしまったので“それなら、好きなことをやるためのソロプロジェクト
をやろう”ということで始まったのがCyclamenです。でもそれから2ヵ月くらい
して、結局PINK WIDOWも解散することになったので、そのままCyclamen
の活動がメインになりました」

――Cyclamenという名前の由来は?
「シクラメンって、とてもきれいな花ですけど、日本では名前に“死”と“苦”が入
るから、お見舞い等で贈ってはいけない花とされていますよね。それに白い
花と赤い花で、花言葉がまったく変わってくるんですよ(白は「清純」、赤は
「嫉妬」になる)。きれいだけどどこか暗い面や、花の色やシチュエーション
によって意味が変わってくるという面が、自分の音楽に近いと思ったんです」

――スタートして間もなく、元SikTh、現PRIMAL ROCK REBELLIONのマイ
キー・グッドマン(vo)とコラボしましたね。
「Cyclamenとして最初に書いたのは“Never Ending Dream”という曲なんで
すけど、できあがったときにマイキーに歌ってほしくて、Myspace経由で、ダメ
もとでコラボレーションを打診してみたんです。そうしたらOKしてくれて。彼が
歌ってくれたヴァージョンを“Sleep Street”というタイトルでリリースしました。
今もiTunesでチェックできますよ」

――その後メンバーを集めて、Cyclamenは一度バンド形態になりましたよね。
「しばらくするとCyclamenとしての知名度が少しずつ上がっていって、ライヴ
をやってほしいという声が強くなってきて。それでPINK WIDOW時代に共演し
たバンドのメンバーや、その友だちを集めて、バンドを結成したんです。2010年
にはHAUNTED SHORESとのスプリットや、初めてのアルバム『SENJYU』
をリリースして、ツアーもやりました」

――でも、その後解散してしまいます。何があったんでしょう?
「メンバーのほかの仕事の関係もあって、スケジュールの調整がだんだん難
しくなっていったんです。同時にオリー(・スティール/g)がMONUMENTSに
加入するためにCyclamenを脱退することになって。それだったら、もうこのメ
ンバーで続ける意味はないと思ったんです。それにバンドとしてやらなければ
ならないことに追われて、作曲のペースが落ちていたこともありましたし。だか
ら一度まっさらになるために、ソロに戻ることにしたんです。住んでいる場所も
イギリスからタイに移るところだったので、再出発も兼ねて」

――なぜイギリスからタイに?
「妻がタイ人なんですけど、彼女にできるだけ家族といっしょにいたいという意
向があったので。それに、物価が安いですから(笑)。アーティストとして生活す
るにあたって、最もメリットが多いのがタイだったんです」

――タイに移住してから、デジタルEPの『MEMORIES, VOICES』をリリースし、
日本でバンドを再び結成…と、またいろいろありましたね。
「2012年に『SENJYU』と『MEMORIES, VOICES』を日本でCD化してリリース
したんですけど、そのときに、日本でのCyclamenの知名度をもっと高めたいと
思ったんです。またライヴをやって、いろんな人にアピールしようと。それで知り
合いのつてをたどって、まずサポートのドラマーと、今は正式に加入してくれて
いる水野比呂志さん(b/Arise in Stability)が来てくれました。それからWebで
ギタリストを募集したら勝乗(貴志)くんが応募してくれたので、このメンバーで
やってみようということで、2012年の冬から少しずつライヴ活動を始めて。それ
から勝乗くんの友だちのトリスタン(・ゼムゼフ/g)が加入して、今のメンバー
が集まりました」

 

――バンドとして再出発作でもある新作『ASHURA』ですが、どんな作品を作ろ
うとしたんでしょう?
「今回は、コンセプトとして怒りを表現したかったんです。怒りって、とても激しく
て制御できない感情ですよね。でも音を何層にも重ねて作り込んだ曲だと、どう
してもメロディアスになってしまうので、コンセプトとは違ったものになってしまう。
だから今回はヴォーカル、ギター2本、ベース、ドラムだけに絞って、どこまでで
きるかに挑戦しました。曲はすべて僕が書いているんですけど、勝乗くんとトリ
スタンのアイディアも少しずつ取り入れています。自然というか、健康的なコラボ
レーションができたと思いますね」

――前作『SENJYU』は千手観音が、『ASHURA』はそのまま阿修羅がモチー
フになっているみたいですね。
「次のアルバムは『AMIDA』というタイトルで、阿弥陀如来がモチーフになる予
定です。三部作としてつながっていて、『ASHURA』から『SENJYU』に進んで、
『AMIDA』がラストという構成になっています。流れとしては、阿修羅が千手観
音に出会って、最後に阿弥陀如来になるというものなんです。『SENJYU』を作
り終えたときに、その続きのストーリーが、なんとなく見えたんです。それなら
『SENJYU』に至るプロセスもなきゃと思って、今回の『ASHURA』を書きました。
もともと仏教の神話や、それに影響された物語も好きだったんですけど、オリ
ジナルの阿修羅の逸話がどうしても腑に落ちないので、自分なりに解釈したも
のを作品で表現しています」

――そのストーリーとは、どういうものなんでしょう?
「阿修羅が、自分の母親をさらった帝釈天に闘いを挑むんです。何度も何度も
闘っては負けることを繰り返すんですけど、やっと帝釈天を追い詰めたときには、
母親はもう亡くなってしまっている。母親が戻って来ないなら、帝釈天を倒す意
味もない。そうして何もかもを失ったところで終わるのが『ASHURA』なんです。
そこから千手観音に出会って救われるけど、死別してしまうのが『SENJYU』。
そしてその後がどうなるのか…を『AMIDA』で描こうと思っています。今回、テク
ニカル・メタルとしてはかなりの作品ができたと思うので、次は音楽的にまた新
しいところに挑戦したいですね。もしかしたら、ディストーションのほとんどない
作品になるかもしれません」

――『SENJYU』に収録されている“HOPE”の別ヴァージョンと言える“悲歌慷慨”
の存在が面白いですね。
「アルバムを通して、怒りとともに悲しみも表現したかったんです。でもそうする
には、速い曲では違和感があったんですよね。どう表現しようか考えているとき、
“HOPE”をマイナー調でやってみたらすごくしっくりきた。そこから工夫して、最
終的には“HOPE”との関係を抜きにしても、アルバムを構成する大切な要素に
できたと思います。『AMIDA』でも、また別の形で表現するつもりです」

――Cyclamenの歌詞は基本的に日本語で、『ASHURA』は曲名もすべて四
文字熟語ですよね。もともとイギリスで始まったプロジェクトだし、今西さんも英
語が話せるのに、ここまで日本的なことにこだわる理由はなんなんでしょう?
「世の中に、楽器のテクニックがある人はたくさんいますよね。でも、英語が話せ
るけど日本の文化がわかって、かつこんな音楽をやっている人となると、ほかに
誰もいないんです。やるからにはほかの人にできないことをやるのが、自分の哲
学なので」

――芯はブレていないものの、活動していく中でいろいろなことがありましたし、
曲のスタイルも変化していきましたね。そのなかで、ずっと変わっていないこと
はなんでしょう?
「ずっとDIYでやってきたことと、色々なスタイルの曲を書くのを恐れないことで
すね。他人の反応を気にしていたら、いい曲はできないですから。今までも自分
の判断を信じて、好きなようにやってきたからこそ、ファンになってくれた人がい
ると思うんです。だから、それは絶対に貫かなきゃならない。自分の好きなよう
にやらないと気が済まないし、全部自分でやっているからこそ、誇りが持てるん
だと思います。このやり方は僕に合っているし、こうするしかない。それを突き詰
めているだけですね」

――どの曲でも感情表現を大切にしているのも、ずっと貫いていることのひと
つですよね。
「テクニックは、あくまで曲を作って、表現するためにツールなんです。どれだけ
幅広いスタイルでプレイできても、結局どんな感情を曲で表現したいのかがわ
かっていないと、意味がないと思います」

――これからは、どんな活動をしていきたいですか?
「来年は、タイでやっているもうひとつのバンドのWithyouathomeでの制作を
予定しています。Cyclamenとしては、いろんな実験をしていって、いいものが
集まったら、まずEPを出したいですね。その時は、勝乗くんとトリスタンが中心
になって、Cyclamenらしさをキープしつつも新しい面をどんどん出して、表現
のツールを増やしていけたらと思っています。『AMIDA』に関してはまだぼんや
りとしたアイディアしかないんですけど、これからライヴをやったりすることで固
まっていくと思うので、もう少し明確になったら制作にとりかかろうかと思います」

――日本でも、ライヴをやる機会が増えていったらいいですね。
「そうですね。これからライヴは増えていくと思います。僕としても、自分の音楽
をサポートしてくれている人たちにライヴを観てもらって、直接会ってお礼を言い
たいですし。ファンは着実に増えてくれているので、本当に感謝しています。今
後はそういう人たちをどうやってもっと増やしていくか、ですね」


文・望月裕介/text by Yusuke Mochizuki



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 Cyclamen
 『ASHURA』
 10月13日配信スタート

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シーンに登場したころは、同時期に盛り上がり始めていた新しいプログレッシヴ・
メタルの動き「Djent」との関連性を指摘されていたCyclamen。実際にはエモー
ショナルかつ繊細な表現で、独自のスタンスを築いていた彼らだが、この2作目
『ASHURA』では、さらに磨きがかかっている。ブルータルで凶悪な音像を操り、
複雑なリズムと曲構成で畳みかけてくる。ヴォーカルもより強さを増し、鬼気迫
る声で怒りを表現。しかしただ激しいだけでなく、“夢幻泡影”や“神武不殺”“空即
是色”といった曲で、深い哀切も浮かび上がらせる。テクニック、激情、そして日
本人ならではの表現力を限界まで煮詰めた、一大プログレッシヴ・メタル絵巻。