ブレットが語るソロ作とは? そしてBAD RELIGIONとは?

PUNKSPRING 2017でも、またその後の単独公演でもBAD RELIGIONのライヴは見事だった。歳をとろうが、キャリアを重ねようがまったくヒヨらず、徹底してパンクロックだった。新ソロ作『MILLPORT』(日本盤未発売)を発売したタイミングでもあったことからそのソロ作の話をはじめ、グレッグ・グラフィン(vo)にいろいろ聞いた。対面取材をしたのは東京単独公演の開演前だった。

「(Vol100を眺めつついきなり切り出された)GrindHouseのことは憶えてるよ」

――今夏で創刊17周年を迎えるんです。前は商業誌でしたけど、今はフリーペーパーになりました。どうぞご自由にお持ちくださいって(笑)。
「音楽で言うと音源フリーダウンロードと同じだね(笑)」

――一昨日のPUNKSPRING 2017でのライヴはすばらしかったです。もっとも1曲目が“American Jesus”だったのは完全に想定外でしたけど(笑)。
「そうだったんだ?」

――だってあの曲はBAD RELIGIONの代表曲中の代表曲じゃないですか。まさかそれが1曲目とは…誰も思いませんから(笑)。
「ファンはみなクレイジーになっただろ?」

――でしたね。1曲目をあの曲にしたのはなにか考えがあったからですか?
「そうだね。PUNKSPRINGに対する太鼓判みたいな曲だから。今回がPUNKSPRINGの大切な回だってことは事前に聞いてた。そのことを本気で受け止めてるということを示したかったんだ。大抵のバンドは人気曲を1曲目には持ってこれない。その後に演る曲がなくなってしまうから。だけど私たちには、今夜聴かせる曲はどれも1曲目と同じくらいスゴいんだぜ、一貫してスゴいんだゼって意思表示する自信があったんだ」

――さぞかしステージ上から見たファンのハジけっぷりには満足したでしょうね(笑)。
「ああ。キミも驚いただろ?日本のオーディエンスのワイルドさは、私たちが日本にくるようになってから大きく変わったよ。初めの頃は私たちも今よりずっと若くてワイルドだったけど、今じゃこっちが年寄りでファンの方がクレイジーだ(笑)。すこぶるいい気分だね」

――自分はもちろんですけど、ファンの人たちも大いに楽しんだと思いますよ。
「よかったよ、ありがとう」

――実際ステージMCでも言ってましたけど、PUNKSPRINGは今回が最後です。過去何回か出演してますけど、PUNKSPRINGに特別な想いってあります?
「私たちはPUNKSPRING開催以前の日本を知ってるバンドという意味で興味深い存在だと思う。PUNKSPRING開催後の日本も見ることになるから、全体の変化を見届けることになる。日本の音楽界にとってとてもポジティヴな変化だったと思う。少なくともBAD RELIGIONの視点から見ても、私たちのステイタスをグッと上げてくれたと思うしね。この手の音楽はカルチャーの大事な一部分だ。カリフォルニアだけでなく日本でもね。私たちが体現するものの受け容れ場所が日本にも見つかったんだと思う。まぁ、アーティストとしては、自分がなにを体現するかというのを表現するのは難しいけどね。キミはジャーナリストだから、私たちがなにを体現してるかはキミが決めればいい。だけど私は世界中で、カリフォルニア州南部とは違う価値観を持ってるたくさんのコミュニティで、自分たちの音楽が生き様に受け容れられてるのを見てきた。それはとても大きな意味がある。PUNKSPRINGはその手助けをしてくれたんだ。この国のカルチャーのなかでの、この手の音楽の存在感を高めてくれたんだと思うよ」

――ライヴじゃ“Suffer”“21st Century (Digital Boy)”“Generator”などをはじめ、たくさんオールドスクールチューンを演りました。ジェイ(・ベントリー/b,vo)とアナタは不動/不変ですけど、ブライアン(・ベイカー/g)もいなければブレット(・ガーウィッツ/g)もおらず、マイク・ディムキチなど新しいギタリストが2人、ジェイミー・ミラーといった新しいドラマーと新布陣でした。新布陣でオールドスクールチューンを演る…興味深かったです。
「ありがとう。思うに、ブレットとオレが書いた曲が今以上にいい形でプレイされたことは過去ないんじゃないかな。私も興味深いよ。というのも、若い頃はミュージシャンとしての力量よりスキルのいる曲を書いてたから。だけどジェイもベースが巧くなったなど、それぞれのメンバーが担当してるものが巧くなったんだ。ジェイミーもマイクも歳を重ねてうまくなっていった。私たちの音楽はスキルのあるミュージシャンの恩恵を受けるタイプのものだと思う。BAD RELIGIONはこういうメンバーがいてラッキーさ。みな、スゴくスキルがあるからね」

――79年結成ですからキャリアは今年で38年になります。その間アナタはずっとパンクロックを歌い続けてきました。そのモチベーションはなんだったんでしょう?
「さっきGrindHouse magazineを長くやってる話をしてくれたよね。同じ質問がキミ自身にも言えるんじゃないかな。いつまでできるかなんて見当もつかないものさ。自分のハートからやってることだからね、自分の人生の一部として。それが人生の一部で、自分の人生にハッピーだったら続けていく。BAD RELIGIONもそうだと思う。私たちに人気がなかったとしても、やっぱり曲を書き続けてただろう。それが私たちのライフスタイルの一部だから」

――おっしゃってることはわかります。やっぱライフスタイルの一部になってるんですよね。だから理由を聞かれてもうまく答えられない(笑)。
「だよね。自分じゃ何年やってきたか、なんて数えないもんね。人生の一部だからさ」

――そうです。音楽からして自分の人生の一部ですから。
「わかるよ。確かに“いつまでやりたいのか”なんて訊いてくる人がいるけど、それって“いつまで息していたいのか”って訊かれてるのと同じだよな(笑)」

――確かに(笑)。
「まあ長続きすることを願ってるけどさ(笑)」

――昔の話をしますけど、アナタに初めて会い、対面取材したのは94年のことでした。場所はハリウッド。Epitaphのイベント、Epitaph Summer Nationalsがザ・パラディアムで開催された翌日でした。
「そうか、あのときだったか」

――で、とにかく驚いたのがアナタは黒い大きな革製カバンにたくさん本を入れて持ってきてて、「ぇ、ホントにパンクロッカー?」となったことでした(笑)。これは今も憶えてます。
「あの頃はまだ博士号を持ってなかったから。まだ学生だったんだ」

――ぇ、あのときってまだ学生だったんですか?
「そう」

――だけど大学で教鞭をとってましたよね?
「あの後のことさ。進化論をね」

――今もなお?
「そう、コーネル大学で」

――ニューヨークの超有名大学ですね。
「秋学期(9~12月)はそっちにいて、進化学を教えてる。秋学期の4ヵ月だけだけど。私自身は、バンドの活動と同じように考えてる。壇に上がって、とても重要だと自分が思うことを教えてるわけだからね。進化についてきちんと理解することは、人間の心にとって大事なことだと思う。自分の世界観にも影響するものだし。BAD RELIGIONとして私が歌ってることの多くも哲学的で、人の世界観を形成する手助けになるからね」

――自分には進化論も進化学も学術的な知識は一切ありません…。
「確か日本にとても有名な進化論者がいるよね。1人は最近亡くなった理論家だった。モト・キムラ(=木村資生)だったかな。彼は私が教える内容のなかでも重要な人物のひとりさ。アメリカに長く滞在し、遺伝子学の有名な理論を打ち立てた人だよ。だけど進化論が日本の学校のカリキュラムにあるかどうかはわからない。アメリカで生物学を専攻すると進化論の科目を取らないといけないんだけどね。日本じゃどうなんだろ?もしかしたら取らなくてもいいかもしれないな」

――まったくわからずで…。
「そうか(笑)。進化論はみなチャールズ・ダーウィンの理論や、彼の理論の根拠となる変化に基づいているんだ。20世紀のね。種の起源を説明するオルタナティヴな方法でね。人間がどこからきたのか、信心深い人というか、宗教学はある一定の教え方をし、進化論じゃ科学的な教え方をするんだ」

――はあ…で、3枚目のソロ作『MILLPORT』を出したばかりです。『AMERICAN LESION』(97年)などの前2作はフォーキーな作風でした。今作はわかりやすく言うとカントリーですね。
「少しね。私は音楽ジャンルにはとらわれないから、どのカテゴリーに入るのかわからないけど」

――ソロ作用とBAD RELIGION用の曲って意図的に作り分けるんですか?
「今作の方が前2作よりもっと作り込んでると言えるね。参加ミュージシャンが6人いるから、どの曲も念入りにプロデュースされた。プロデューサーのブレット(・ガーウィッツ)…BAD RELIGIONでも曲作りやプロデュースを一緒にやってるけど、アイツがこの今作のプロデュースを手がけてくれたけど、“スタジオ感”のある作風にすることを望んだんだ。フォークソングだったら居間とかでくつろぎながらやるけど、アイツは“今回はもっとスタジオ的な作風にしよう”って。だから余計カントリーっぽく聴こえるのかもしれない。カントリーの作品って作り込まれてから。たくさんのプロダクションが施されてるものなんだ。アコースティックギターを持ったヤツらがタムロしてるだけのものじゃない。
私にとってメインで重要なのは曲作りさ。ああいうプロダクションを施されると、スタジオに何人いようが、いくつ楽器を使おうがあまり関係ないんだ。いい曲かどうかが大切。そこがBAD RELIGIONとの共通点だね。BAD RELIGIONの曲もピアノでもアコースティックギターでもいけるし、私はほとんどの曲をそれらの楽器を使って書く。だけどどんな楽器を使ってやるかはプロデューサーの判断さ。つまり、どういうサウンドになるかってこと。私の頭のなかじゃどっちも同じ場所のように感じてるよ」

――メジャーキーで書かれた曲と、マイナーキーで書かれた曲のバランスがいいとも思いました。リラックスできるっていう。
「私たちはドライヴに向いてる作品と言ってるんだ」

――普段パンクロックをはじめ、激しい音楽を聴く機会が多いので、今作のような作品を聴くとスゴくリラックスできます。
「おお、ありがとう!」

――耳や頭がすっきりするっていうか(笑)。
「聴く人をハッピーにする作品が作りたかったんだ。だからヘヴィすぎない、アグレッシヴすぎない作風にすることが大事だった。私も歳をとってきてるからね、アグレッシヴなものからちょっと離れる時間も必要なんだよ(笑)。だけど面白いもんで、音楽はいつも私のムードに影響するんだよな。だから長い間、リラックスできる音楽もやってきたんだ」

――今作の曲を書いていたとき、またスタジオでレコーディングしてたときに一番気を遣ったことはなんでしたか?
「BAD RELIGIONの作品を作るときは、私はプロデューサーのひとりでもある。だから楽器編成やアレンジのことも考えないといけない。だけどソロ作のときはブレットがプロデューサーだから、判断をすべてアイツに委ねる。だからアーティストでいることだけに専念することができる。そうすると、ピアノやギターの演奏に集中することができるんだ。BAD RELIGIONのときはやらないけどね。ソロ作じゃクリエイティヴになったりアーティスティックになったりできるのが楽しいんだ。私の曲作りにはいつもなんらかの形で哲学的な特徴がある。普遍的なものなんだ。今日しか重要性のないものは作りたくない。20年経ってもみんなが歌えるものを作りたいんだ。だからものごとと深く関連性があって意味があるものでなければならない。音楽は、本や映画には届かない領域に触れることができることがあるからね。それが、私のソングライターとしての目標なんだ。そういう領域に触れることがね」




取材/文・有島博志
翻訳・安江幸子